読んだのは2022年9月10日第1刷発行の単行本。雑誌「すばる」に2020年から2022年にかけて掲載された「非日常」をテーマにした連作短編を集めた八編の短編集。
最初に登場する「指紋のついた羽」の舞台は金属加工場。通りの向かい側には縫製工場があった。少女は金属加工工場で働く父と二人だけの殺風景な暮らしをしていた。ある日、少女は縫製工場で働く縫い子さんとバレーを観に行く。『ラ・シルフィード』。その日から少女の頭の中はバレエ『ラ・シルフィード』で埋まってしまう。
金属加工工場に捨てられていた工具箱はバレエ『ラ・シルフィード』に魅せられた少女の想像力で華やかなバレーの舞台へと変わる。
「指紋のついた羽」に出てくる工具箱、少女が工具たちにバレエを踊らせる場所として選んだ工具箱は、著者が2024年に出した「耳に棲むもの」に出てくる"バタークッキーの缶"を思い出させる。「耳に棲むもの」のバタークッキーの缶は忘れられたものの保管場所。この作品の工具箱は晴れ舞台。
*
この作品に登場する主人公はみな孤独を抱えている。孤独、日常と非日常、閉鎖空間という言葉が浮かぶ。言葉を連想していたらギレルモ・デル・トロ監督作品の「パンズ・ラビリンス」にたどり着いた。
*
「指紋のついた羽」 縫い子さんは少女の手紙へ返信する。
「ユニコーンを握らせる」 ローラ伯母さんは昔、女優だった人。
「鍾乳洞の恋」 新しいブリッジを舌の先で触ると鍾乳洞みたいな穴が見つかった。
「ダブルフォルトの予言」 劇場から出てくる人々は薄汚れた地面から数ミリ浮いていた。
「花柄さん」 ベッドの下の空間は波打つ層となった物体でふさがれていた。
「装飾用の役者」 私の雇い主は老女。二人で歩くと祖母と孫にしか見えなかった。
「いけにえを運ぶ犬」 おばあちゃんが持ち出されると言うことは解決不能ということ。
「無限ヤモリ」 無限ヤモリは子宝のお守り。
*
こんな話が並ぶ。
(2026年6月 岡山市図書館)
